国内最大規模の
「コールドチェーン」を実現した
神戸ポートアイランド
総合物流センター(KPID)

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“アジア最後のフロンティア”
と呼ばれるミャンマーで、
事業進出から
成功をおさめるまで

CHRONOLOGY

PI-D後背地の再開発で
既存2センターの機能を集約

 神戸港の外貿埠頭などの総合管理を担っていた神戸港埠頭(株)から「ポートアイランドDバース(PI-D)後背地の公募」に関する情報提供があったのは2010年のことだ。それは他社のコンテナターミナルの移転跡地で、全長300mの岸壁にガントリークレーンを備える、敷地面積約9.2haの広大な土地だった。神戸港地区でのさらなる施設基盤の強化を図っていた上組は、早速この公募に応札し土地の取得に成功。ただちに開発計画の策定に取りかかった。

 PI-D開発の中心となったのは神戸支店だ。青果物を中心に輸入貨物を取り扱い、当時すでに神戸地区に多数の物流施設を保有していた神戸支店だが、それらの施設は複数の問題を抱えていた。東灘区の「魚崎青果センター」、兵庫区の「兵庫青果センター」が神戸支店の2大施設だったが、魚崎青果センターの建物はどれも老朽化し、阪神・淡路大震災を経て傷みも激しかった。一方の兵庫青果センターは、施設の老朽化に加えて別の問題も抱えていた。同センターでは敷地内の4カ所に点在するフレッシュシステム(現:ファーマインド)の果物加工工場へのデリバリーを当社が担っており、そのコストが年々嵩んでいたのだ。

 これらを踏まえて神戸支店は以下のような開発計画を立案した。まず穀類と雑貨類を保管する「A棟(一般棟)」を建設する。次に大型の「青果棟」を建て、ここに老朽化が進む魚崎や兵庫センターの機能を移管する。そして最後に青果棟の隣に大型の「加工工場(加工棟)」を併設、ここに兵庫センター内に点在するフレッシュシステムの加工工場を集約することでデリバリーを効率化するという計画だ。3棟を合わせた延床面積は約8万8300㎡、国内最大規模の大型施設となる。

 青果物のスムーズなデリバリーを考えれば「青果棟」と「加工棟」は一体の構造物して建てるのが望ましかったが、保税貨物の管理上の問題などから別棟として設計せざるを得なかった。そこで出てきたのが「2棟の建物の一部を渡り廊下でつなぎ、そこにコンベアを設置して建物内部で貨物の受け渡しができるようにする」というアイデアだ。それが「コールドチェーン(低温流通体系)」の構築につながっていく。

国内最大規模の
「コールドチェーン」の実現

 入庫から出庫まで、青果物を一切外気にさらさず、一貫して適正な温度管理を行う「コールドチェーン」。そのアイデアは、加工棟を別棟として建てることが決まると同時に生まれた。2棟を渡り廊下で連結するのなら、連結部や青果棟の共用部も含め、建物全体を空調管理すれば入庫から加工、出庫まで、完全な温度管理ができるのでは、と考えたのだ。一般的な定温倉庫では、ーつひとつの倉の中は空調管理されているものの、廊下や作業場などは常温だ。それでも品質面で大きな問題はないが、建物全体の空調管理が実現できればさらに高度な品質維持が可能となり、顧客満足につながるはずだ。

 ただし、建物全体の空調効果を徹底するには、空調機器の増設に加え、外気の遮断のための工夫が必要。通常の施設よりも大きな設備投資になることは間違いない。「過剰投資ではないか?」との見方も社内には強かった。だが、他社にない付加価値を提案できなければシェアを伸ばしていくことはできない。それには戦略的な投資も不可欠だ。港運業者として初のコールドチェーン施設はこうした経営判断を経て決定に至った。

 コールドチェーンの実現にむけ、施設設計では、青果棟に最新機器を導入するとともに、構造上の様々な工夫が施された。最も重要な空調設備には高機能の最新機器を採用。デフロスト(除霜)も従来のヒーター方式に代えてヒートポンプ方式を採用し、空調を止めず適温を維持しながら効率よく除霜ができるようにした。

 並行して「いかに外気の流入を防ぎ、建物内の温度を維持するか」を入念に協議しながら詳細設計を進めた。青果棟に外気が流入する1階の搬出入口や垂直搬送機の入口には、二重の防熱扉やエアカーテン、シートシャッターを設置。青果棟東側のコンテナプラットフォームには青果物の低温倉庫としてはハイスペックとなるドックシェルターを採用するなど、外気遮断のために徹底的な工夫が施された。

神戸港エリアにおける
青果事業の基盤を強化

 PI-D後背地の土地購入から1年後の2012年8月、まず「A棟(一般棟)」が竣工した。穀類を保管する定温庫と雑貨類を保管する常温車を併設した5階建て・延床面積19,249㎡の大倉庫だ。定温倉庫だけで1万2,000トンの貨物を収容でき、常温倉庫と合わせると約2万トンの多種多様な貨物を取り扱うことができる。 続いて同年11月には「青果棟」が竣工。北側に岸壁、南面はトラックヤード、東面にはコンテナプラットフォームを備える、5階建て・48,095㎡の巨大施設である。全32室の定温庫を有し、そのうち1階から3階までの20室は燻蒸機能を備えている。いずれも国内最大規模だ。また、大量の青果物の荷捌きに対応するため、最新式の垂直搬送機12基と、5トンエレベーター1基を装備。トラックヤードには大型トレーラーも収まる全長160mの大屋根を設け、雨天でも貨物を濡らさず安全に荷捌きができる。

単独としては国内最大規模の加工棟

 そして翌2013年1月、青果棟の西側に隣接して「加工棟(21,024㎡)」が竣工する。73室のバナナ加工室とカットフルーツの製造設備を備え、単独の加工施設としては国内最大規模であり、2階、3階部分は青果棟からの渡り廊下で連結され一体となったコールドチェーンを構成している。上組の技術とノウハウの粋を結集することで、荷揚げされた青果物が、保管、加工を経て出荷されるまで一切外気に触れず、一貫して適正な温度管理ができるコールドチェーンを実現できたのである。

 3棟が揃ったことにより、青果物の物流拠点としては前例がないほど先進的で大規模な施設、「神戸ポートアイランド総合物流センター(KPID)」が完成した。開業後間もなくKPIDは持てる性能をフルに発揮し、顧客から予想以上に高く評価された。見学の依頼も多く、稼働初年の2013年は年間を通し毎日のように見学者の来訪があった。見学会でコールドチェーンに惚れ込み、すぐに取引の始まったケースもある。
 その後もKPIDは神戸港における青果事業の基盤強化に確実に寄与してきた。青果事業の革新と新規事業の開拓に、KPIDは今後ますますその役割が期待されている。

INSIDE STORY

Y.M

1990年入社
神戸支店 青果部

お客様満足の向上をめざして

 KPIDのプロジェクトがスタートした当時、私は神戸支店の魚崎青果センター所長を務めており、主に輸入青果物(バナナ・かぼちゃ等)の営業・荷捌き業務など統括していました。その立場から、新施設における青果棟の倉庫や輸入青果物の検疫に対応する燻蒸施設の規模、あるいはお客様のニーズに応えるコールドチェーンの実現方法などに関して課員を集め、何度も会議を開いて計画を進めました。青果棟が竣工した2012年11月には、第一船としてニューカレドニア産のかぼちゃ専用船が入港しましたが取扱量は僅かで「本当にこの大きな青果棟が埋まるのか?」と不安を覚えました。しかし翌2013年1月には加工棟が本格的に稼働し、大量のフィリピン産バナナにより倉庫が円滑に稼働した際には、安心感と同時に大きな達成感を得ることができました。
 現在は、神戸支店青果部の3営業所(ポートアイランド青果センター・兵庫青果センター・L4青果センター)とKMDC(港運事業本部)で取り扱う輸出入青果物に関しての営業・荷捌き業務の統括を担当しています。また完璧なコールドチェーン確立の実現に向けた調査・改善にも努めています。現在の青果センターの取り扱い貨物は輸入青果物が大部分を占めていますが、今後の目標としては、政府も推し進めている輸出促進に目を向け、当施設の優位性を利用した輸出貨物商材の獲得にも貢献したいと考えています。

H.Y

2011年入社
神戸支店 青果部

先輩達の苦労を無駄にしない

 KPIDの建設が進んでいた2011〜2012年頃は、入社したばかりで右も左もわからない状態でしたが、完成した施設を初めて見たとき、その規模の大きさに圧倒されたことはよく覚えています。その後、KPIDが稼働を開始したタイミングで品質管理担当の一人としてここに移りました。私のミッションはコンテナからの貨物の入庫、倉庫での保管、トラックへの積み込み、あるいは隣の加工棟への移動など、全ての過程で温度・品質が維持されているかしっかり管理することです。本プロジェクトの立ち上げに関わった多くの先輩の苦労を無駄にしないためにも、お客様に満足していただける高い貨物品質の維持に努めていきます。