“アジア最後のフロンティア”
と呼ばれるミャンマーで、
事業進出から成功を
おさめるまで

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国内最大規模の
「コールドチェーン」を実現した
神戸ポートアイランド
総合物流センター(KPID)

CHRONOLOGY

「アジア最後のフロンティア」へ
他社に先駆け進出を決断

 2011年3月、長年軍事独裁政権下にあったミャンマーが民政へと移行し、ミャンマー経済は国際社会に復帰することになった。それまで経済発展が遅れていたミャンマーは、この民政移行によって一躍、経済成長が有望視される国となり、「アジア最後のフロンティア」とまで呼ぶ者もいた。
 上組がミャンマー進出の検討を開始したのもこの将来性に着目したからだ。ただしそれまで世界各国からの経済制裁が続いていたミャンマーに、この時点で進出している日本の企業は非常に少なく、足がかりはまったくなかった。
 1970年代からいち早く海外進出を始めた当社だが、基本的には現地で顧客やパートナー企業が見込めることが進出の大前提だった。その原則に照らせば、ミャンマーは対象外。政情が不安定であることも問題視された。
 一方、今後世界からの経済制裁が解除されれば、ODA(政府開発援助)により経済特区の開発や未整備状態の港湾、空港、道路などのインフラ整備が進むこともたしかだ。実際、すでにODAの計画が次々と発表され、事業性調査が始まっていた。近い将来、日本企業が続々と進出するのは間違いない。必ず物流や効率の良いターミナル運営のニーズが高まるだろう。リスクは高いが、発展の可能性はそれ以上に高いと考えられる。
 最終的に経営陣の出した結論は「GO」だった。同業他社はどこもまだ動き出していなかったが、従来の原則にとらわれず、大きな可能性を秘めたミャンマーへの進出を英断したのだ。進出拠点には同国最大の商業都市であるヤンゴン市が選ばれた。
 こうして2012年7月、日系企業がヤンゴンに運営する高層オフィスビル「サクラタワ一」13階に上組ヤンゴン事務所が開設された。サクラタワ一はヤンゴン港からもほど近く、税関への対応や輸出入関係の業務を行う上で最適の立地だと判断された。まだアメリカが経済制裁の解除に踏み切る前のことだ。

現地パートナーとの提携を契機に
本格的な事業成長がスタート

 将来性は期待できるとはいえ、当面は仕事の目途が立たない。それ以前に現地市場の情報もなく、設備や車両などのハードすら整っていない。そんな状況下で、ヤンゴンの担当者達は口ーラー作戦による現地日系企業への挨拶回りを開始した。日系企業が多数入居するサクラタワ一には情報収集に訪れる日系商社マンも多く、見積依頼は頻繁にあったが、どれも一次見積り止まり。受注に至る案件はほとんどなかった。 事業が軌道に乗るのは、現地パートナー企業EFR社とのコラボが始まってからだ。

 海外事業では、受注した仕事をこなしてくれる現地パートナーが不可欠になる。担当者達は営業活動と並行して手探りで何社もの現地物流会社に接触を試みていた。そうした中、候補に浮上したのが、ヤンゴンに本社を置くEFRだった。大手陸運会社であると同時に海運会社の船舶代理店業も手掛けるという、上組とよく似た業態の企業だ。財務体質も健全で、政府要人とのパイプもある。EFRにとっても上組は日系企業との取引の足がかりとなり得る有利な存在であった。

EFRトラックでの地方配達

 こうしたWin-Winの関係を前提に交渉が進められ、2013年3月、業務提携契約が締結されてトラック輸送の共同事業がスタートした。そのタイミングに合わせて当社は日本から中古車両11台をミャンマーに持ち込んだ。「ドライバーや運行管理はどうするのか?」「過剰投資ではないか?」など懸念の声もあったが、最終的には「自社トラックを持っておかねばコスト競争には勝てない!」との経営判断によるものだった。
 EFRとの共同事業を機にミャンマー事業は本格的に進み始める。現地スタッフとともに営業活動を開始した直後、発電所のプラント輸送の話が舞い込んできた。ヤンゴン事務所開設以来の大型案件だったが、日本の港湾大手の上組とミャンマーの陸送大手のEFRが組んだことで、高い信頼を受けこのビッグプロジェクトを見事勝ち取ることができたのだった。

ミャンマーの経済発展とともに
総合物流事業として進化し続ける

 2014年3月、1年間の共同事業の実績を踏まえ、当社とEFRとの合弁による「上組EFR」が設立された。上組EFRはヤンゴン港を拠点に、トラック輸送(国内・越境陸送)、フォワーディング、輸出入通関、内陸水運輸送など様々なニーズに応え、ミャンマーでの総合物流事業を発展させていく。
 同年12月には上組EFRと上組のタイ現地法人であるTLSが連携して、タイからミャンマーに抜ける山岳地帯を通る大型建築部材の陸上輸送を実施。山岳地帯は悪路のため従来はマレー半島を迂回する海上輸送で対応してきたが、上組のノウハウを駆使して陸上輸送に変えることでリードタイムを19日から6日へと大幅に短縮し、輸送費も約10%低減できた。

Thilawa Global Logistics Co., Ltd.(TGL)

 2015年3月には、ヤンゴンの南東部で開発の進む「ティラワ経済特別区」内に住友商事との合弁で現地法人TGLが設立された。TGL事業所内にはティラワ税関も入居し、これによって倉庫利用と行政サービスをワンストップで受けられる高い顧客メリットを実現している。
 さらに2017年12月には、ティラワ地区港に穀物・飼料を専門で取り扱うバルクターミナル運営会社を設立し、ターミナル開発と倉庫・サイロの建設を進めている。これは上組にとって念願の「海外でのターミナル運営事業」でもある。そして2018年3月にはティラワ地区港に整備が進む「ODAターミナル」での運営権を取得し、2019年5月に運営を開始した。

 2012年の進出から8年、ミャンマー事業は着実に進化し、拡大を続けている。だが、この成功は決して当初から約束されていたわけではない。それはリスクを恐れることなく、社会情勢とマーケット動向を読み切り、進出を英断した経営陣の判断力、そして未開の地で事業拠点の整備や顧客の獲得に奔走した現地スタッフの努力があってはじめて成し遂げられた偉大な一歩なのである。

INSIDE STORY

M.S

1997年入社
海外事業本部 ミャンマー担当

“常識”が異なる世界での苦労

 2014年9月の赴任後、私は「ODAターミナル」運営権の入札情報を集めるため、毎週ミャンマー港湾局(MPA)を訪問するとともに、ティラワ経済特区内での合弁会社設立に向けた事業性調査や合弁の手続きにも奔走しました。また、資金調達のためにIFC(国際金融公社)との折衝も担当させていただき、世界各国のエキスパートの前でプレゼンテーションを行ったことは他では得られない経験だったと思います。
 当プロジェクトが軌道に乗ったきっかけは2015年8月に上組本社及びパートナーのEFR社から増資のご承認をいただくことができたことでした。当時のティラワ地区ではほとんど荷物が動いておりませんでしたが、先行投資でトレーラーを自社でそろえたことで、ティラワでの最初の大型顧客を合弁会社TGL社にて、受注することができました。
 特に大変だったことと言えば、ミャンマーでしか通用しない“常識”が多く、一度言ったことを平気で変更されたり、通関においては複雑怪奇な税関内規があったりと、日本なら3週間でできることが3ヶ月かかることをイメージしてもらえると分かりやすいかと思います。
 現在、ミャンマーではKamigumi-EFR Logistics (Myanmar) Co., Ltd.(KEFR)、ティラワ経済特区に立地する倉庫会社Thilawa Global Logistics Co., Ltd.(TGL)、コンテナ取扱いを主とする多目的貨物港湾のThilawa Multipurpose International Terminal Co., Ltd.(TMIT)、小麦などのバルク貨物の取扱いに特化し、サイロも備えたバルク港湾であるInternational Bulk Terminal (Thilawa) Co., Ltd.(IBTT)の4法人が当社のビジネスの中核です。それぞれの強みを集結し、相乗効果を最大限に発揮することで他社にはない上組独自の物流網構築に努めています。ミャンマーのポテンシャルは非常に高いと思いますので、機会があれば今後新しい事業にもさらに投資していきたいと考えています。

Y.N

2007年入社
海外事業本部 海外事業部
港湾・インフラ課

職場を作ることからスタート

 2012年、ヤンゴン事務所の初代所長として赴任した私の最初のミッションは、法人登記手続きやナショナルスタッフの確保、オフィス機器の調達など「職場そのものを作る」ことでした。赴任当初から日々顧客の訪問や問い合わせも多く、様々なタスクが山積みでした。また現地のインフラ整備の遅れから生活面でも多くの苦労がありました。停電時にはロウソク一本で夜を過ごしたり、メールを一通送るのに15分程かかったりすることもありましたが、他社の現地日本人駐在員とお酒を飲みながら、そのような苦労話や生活の知恵を共有したことは今となっては良い思い出です。
 今後、ミャンマーでは、貨物の玄関口であるターミナルと荷主との間を上組品質で以て、よりスムーズな一貫物流サービスの提供を目指していきます。そしてこの実現のために、ターミナル単体ではなく、現地合弁会社であるKEFRやTGLとの横連携を深めていくことを重要視しています。
 個人の目標で言えば、私は現在、海外事業本部の港湾・インフラ課という部署に所属しており、TMITのような海外の貨物港湾の運営権獲得が主なミッションです。先述のTMIT、IBTTの運営には現在も携わっています。TMITについては出資パートナーの日系商社や現地企業とタッグを組んで営業活動を推進していますし、港運事業本部の協力も得て、現地で雇用している作業員への安全衛生・技術指導なども行っています。日本国内で提供している質の高い港湾・物流サービスを広く世界に展開する事、これが海外事業本部の使命であり、私の目標であると考えています。